「歩く意味」【心と身体つなぐコラムとエッセイ】
「歩く意味」【心と身体つなぐコラムとエッセイ】
人間は二足歩行をする動物だ。
地球上でこれほど巧みに二足歩行をする動物は他にはいない。
足の大きさは身体に比して小さく、それなのにたった二本の足でじつに長い距離を歩くことができる。
江戸時代の日本人は、一日に普通に40キロは歩いていたらしい。
人間にとって歩くという行為は、人間を人間たらしめているものであり、”歩くことは生きること”と言っても過言ではないだろう。
私は介護施設において利用者たちに歩行訓練といって、歩くことのトレーニングを処方する。
生きることへの意欲が強い人は、歩くことへの意欲も同じくして強い。
このような人は、加齢による体力低下や、病気、転倒による骨折などの怪我などにより、歩く機能が著しく低下していていても、再び歩けるようになりたいと切実に願うのだ。
私がこれまで診てきた人のなかで、命をかけて歩けるようになることを望んでいる人がいた。
その人は80歳前半の小柄な女性で、重度の腎臓障害を患っていた。
この腎臓障害によって、脚はたえず病的に浮腫み、運動機能は低下し、体力も日に日に低下していく。
この方をIさんと呼ぶ。
私がIさんと出会ったとき、Iさんは支えるものがなにもない状態では歩くことができなかった。
4輪のコマが付いた歩行器を使うとなんとか5m程度を歩くことができた。
ただまっすぐに歩くことができず、誰かがついて介助しなければ、横方向に逸れて壁や障害物に衝突してしまう状態だった。
また持久力も低く、5m歩くと足腰が立たなくなりへたり込んでしまう。
しかしIさんは、なんとしてでも一人で歩けるようになると強い意志を持っていた。
週二回歩くトレーニングに取り組み、体力もつき、50mほど歩けるようになっていく。
ずいぶん真っ直ぐにも歩けるようになり、横に逸れても自分で修正もできるようになっていた。
毎回、歩くトレーニングを終えたあとは、「はああ、今日も歩いた!」と、心の奥から喜びをあらわすように言うのだった。
私もそのような姿を見ながら、セラピストととしての喜びを噛みしめていた。
ある日のこと、施設で新型コロナが発生し、一カ月の間施設を休止することになった。
Iさんの住む、サービス付き高齢者住宅では、新型コロナを恐れて、Iさんは一カ月の間自室に閉じ込められた。
一カ月後、施設は再開し、Iさんに再び会う。
そこには別人のように弱りはてたIさんがいた。
歩くことはおろか、自力で立つこともままならない。
顔を見ても憔悴しており、セラピストの直感で、命の灯し火のゆらぎを感じる。
「あらら、Iさん、弱っちゃいましたね。また少しずつ一緒に歩くトレーニングをして体力を戻していきましょう」
と、私は直感を悟られないようにと、以前と同じトーンで声をかける。。
私は、「もうIさんは、生きることをあきらめてしまっているかもしれない」と思ったりしている。
「先生、わたしは歩きたいから、また歩かせてね」
とIさんは答える。憔悴しているため声はかすれて小さい。しかしその声は、力強く、なんだか魂から吐き出す言葉のように聞こえた。
それからまた週二回の歩くトレーニングが始まる。
しかしもう体力は戻らず、歩行トレーニングを重ねるも、3m歩けたのが2mになり、1mも歩けなくなっていく。
それでもIさんは毎回歩いたあとにこう言う。
「はああ、今日も歩いたあ」と。
そしてこう続ける。
「先生、また次も歩かせてね。お願いよ」と、袖をつかむような仕草を見せながら何度も言う。
その言葉は、わたしの魂に深く入ってくるような感覚だった。
あるときIさんはこう言った。
「私は死んでもいいから最後まで歩きたい」
と。
この言葉を聞いたあと、私は施設の管理者の元へ行き、こう告げた。
「Iさんは歩行訓練中に亡くなるかも知れないけど、私は歩行訓練を継続する」
と、私も覚悟を決めたことの宣言をして私はこう続けた。
「今のIさんは、歩くことが生きる意味なのだと思う。歩行訓練をしなくなることは、Iさんの生きる意味を奪うことになるのだと思う」
と。
しかし、一カ月後に私はこの施設を退職することが決まっていた。
私の後任は、まだ死と向き合えない人だった。
Iさんのことは念をおして伝えているが、おそらく歩行訓練はできないだろう。
Iさんは私の退職のあと、寝たきりになり一カ月もしないうちに亡くなられた。
私は幸いに健脚に自分の足で歩くことができている。
歩きながら、Iさんのことを思い出したりする。
歩くことは、魂の行為なのだと、真面目に思ったりしている。
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